2014年11月10日月曜日

ショッピングの科学に気づけるか

こんにちは。流通マーケティング学科の北村です。
今日は「経営学部50周年・大学院経営学研究科30周年」を記念して11月8日(土)に開催されたシンポジウムについて報告します。

会場は出来立てほやほやの、「大倉喜八郎進一層館(通称:Forward Hall)」でした。本学では今年の4月から新図書館が稼働したことに伴い、旧図書館をホールその他に改修する工事をしてきましたが、つい先日完成したのです。
http://www.tku.ac.jp/news/014378.html

ちなみに新図書館は、2014年度グッドデザイン賞を受賞したそうです。
http://www.g-mark.org/award/describe/41636?token=f4BISdNv8Y

なお、旧図書館も、1968年度日本建築学会賞を受賞しています。それほど素晴らしい建築物なので、建て替えるのではなく、改修工事で今後も活用することにしたというわけです。


前置きが長くなりました。当日は、「少子高齢化時代への企業イノベーション―明日への経営戦略・マーケティング戦略を探る―」をテーマに、講演および討論会が開催されました。学外からは、花王カスタマーマーケティング(メーカー系販売会社)、三菱食品(食品卸売)、サミット(食品小売)から、パネリストをお招きしました。

講演を聴いていて、改めて感じたのは、他社同士とはいえ、メーカー・卸売業者・小売業者の三者が協力しなければ、消費者のニーズを的確に捉え、対応することはできないということです。

読者の皆さんが日常的に見ているのは、おそらくスーパーやコンビニなど小売の現場だけだと思います。そこで「いいな」と思った商品を買っているわけです。

しかし、なぜその商品を「いいな」と思ったのか。そして、なぜ「その店」でそう思ったのか。これらを突き詰めて考えてみて下さい。

まずは、商品に興味が涌かなければ、買いたいとも思わないでしょう。そこでメーカーは、新製品が出るときは特に、積極的にTVCMで宣伝します。しかし、その商品が人気を博し、品切れを起こしてしまっては、店頭に並びません。よってメーカーは需要の大きさを見極め、綿密な生産計画を立て、在庫を積み上げておかなければなりません。同時に、小売店もお店の客層にとって、どの位売れそうかを見極め、販売会社や卸売業者に早めに発注しておかなければ、商品を入荷できません。

といっても、これはどの店でもやっていることです。なぜ皆さんは、「その店」で買いたいと思ったのか。これにも三者の協力があります。

その商品を入荷していても、店頭で目立たなければ、皆さんはその商品に気づくこともなければ、TVCMを思い出すこともないでしょう。よって、小売店は重要商品を、お店の中のどこに陳列するか(棚なのかレジ横なのか、棚なら何段目か、など)、よく考えなければなりません。これは「棚割り」と呼ばれ、実務では小売業者ではなく、卸売業者が小売店に棚割りを提案していることも多いです。さらに、メーカーも、小売店向けに、商品をより目立たせるためのグッズ(例えば小型ディスプレイや、ポスターなど)を提供したり、時には販売員を派遣しています。もちろん小売店も、お店の客層にとって買いやすいと思う価格を付けるだけでなく、店員おすすめの一言を書いたメモ(POPと呼ばれます)を貼ったりするなど、積極的に販売促進しています。

これだけ頑張っても、思うように売れない商品も、もちろんあります。その際は、メーカーはパッケージが悪かったのか、卸売は小売店に提案した陳列が悪かったのか、小売店は値段が悪かったのか、などと、それぞれが仮説を立てます。それについては、小売店のPOSデータや店員の証言を卸売やメーカーにフィードバックしたりして検証し、その結果は既存商品の改善や、次の新商品の企画に生かされます。

こう考えてみると、皆さんが小売店で「ふと」「たまたま」買ったと思っていたとしても、実はメーカー・卸売・小売各社の多大なる努力と戦略、および、これら三者同士の協力が、皆さんの購買行動につながったと言えそうです。つまり、「買い物は科学の対象」なのです。

今度小売店に出かけたときは、消費者としてではなく、メーカー・卸売・小売の人間のつもりで、あれこれ考えてみて下さい。「なぜこんなパッケージにしたのかな?」「この棚ではなくあちらの棚に並べればよいのに・・・」「この値段では特売品に負けるよね」というように、気づくことが多々あると思います。こういう視点や疑問を持つことが、社会やビジネスに目を向ける第一歩です(このメッセージは、野球球団の運営というトピックで書いた前回のブログでも、やはり伝えましたhttp://tkubiz.blogspot.jp/2014/09/blog-post.html

最後に、本のお勧めです。「買い物は科学の対象」と言いましたが、その名もずばり「なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学―」(早川書房)という本があります。今は文庫本も出ていますので、よかったら読んでみて下さい。

文責:北村真琴(流通マーケティング学科 准教授)