2014年5月26日月曜日

「ケースメソッド」―米国ハーバード大学で開発された就活に役立つ授業―


流通マーケティング学科の丸谷です。初めての執筆です。私が本年度取りまとめを行っている授業「ケースメソッド」について紹介したいと思います。 

1.ケースメソッドって何?

この授業はあのアメリカの名門ハーバード大学で開発された教育手法で、企業が行っているマーケティング活動の事例(ケース)を用いて、既存の知識や理論を当てはめたり、新しい知識や戦略を生み出したりする教育方法です。

現在多くの経営者を輩出するビジネススクールと呼ばれる経営者育成のための経営大学院で用いられ、若手有力経営者の楽天の三木谷社長、ローソンの新浪会長も銀行、商社からハーバード大学ビジネススクールに留学し修了し、MBA(経営学修士)を取得し、その後の飛躍につながっています。学部生の授業として開講されているのは珍しく、流通マーケティング学科開設時に設置された東経大の目玉科目の1つです。


2.本年度取り扱っている具体的な事例(ケース)

授業は最初の授業に関する説明のガイダンスを経た後、流通マーケティング学科の各専門分野の先生が選択した以下の6つのケースを用いて本年度は行っています。

 ・交通論担当教員が選択した「三陸鉄道株式会社」(朝の連続テレビ小説あまちゃんで話題に)

・ソーシャル・マーケティング論担当教員が選択した「株式会社いろどり」(映画化され話題に)

・サービス・マーケティング論担当教員が選択した「株式会社一休」(大手ホテル予約サイト)

・流通史担当教員が選択した「楽器産業から見た商品戦略の歴史的展開」(日本楽器産業を世界レベルに押し上げた大手企業の歴史)

・グローバル・マーケティング論担当教員が選択した「(株)ローソン」(商社出身MBA取得者新浪氏の経営改革)

・マーケティング論担当教員が選択した「ベンツとウォッチの共同開発」(世界的ブランドの共同開発)
 
 
3.実際に行っている授業

授業は2コマ(90分授業2回)で1つのケースを学習していき、6つのケースがあるので、併せて12回+最初のガイダンスと最後のまとめで構成されます。各教室20名弱が毎回同じ教室に集まり、先生が2回終わると次の教室に移っていく形でおこなわれます。

以下グローバル・マーケティング論担当の丸谷が本年度行っているローソンの事例を用いた授業について紹介していきます。

(1)1週目の授業

  まず、出席確認後、ケース集に添付された事前課題を回収し確認します。本年度私が利用する具体的なケースのタイトルは「株式会社ローソンーイントラプレナー新浪剛史の経営革新-」で、慶応大学ビジネススクール(http://www.bookpark.ne.jp/cm/kbsp/select.asp)のホームページから一部閲覧可能です。

私はグローバル・マーケティングの担当者教員なので、これまでも海外から日本にやってきて成功した企業、具体的にはスターバックスコーヒー、セブンイレブン、マクドナルドを取り上げてきました。

コンビニエンスストアの多くは名前が英語であることもわかるように、米国で誕生した小売業態であり、高度成長期に日本一の売上高を誇ったダイエーが1975年に米国オハイオ州の牛乳メーカーが経営していたコンビニエンスストアからローソンという名前や販売手法などを使う権利を購入して会社を興したところから始まります(ちなみに、現在は米国にローソンという名前を冠したお店はないそうです)。

今年度の事前課題は以下の通りです。
 
課題①では、コンビニエンスストアの普及が進んだ当時の状況とコンビニエンスストアが小売産業に与えた影響、課題②ではコンビニエンスストアの経営転換が必要となった時期の状況、課題③では、課題②を踏まえて経営改革を行った新浪氏の人物像、課題④では実際の新浪改革に関してまとめる課題でした。

授業の最初に、グループワークのためのグループ決めを行います。私の場合、ランダムに選んだ45人ずつを1グループとしています。 
 
グループワークは事前課題①について10分程度各チームではなしあってもらい、回答を黒板に書いてもらいます。私は話し合いの態度や内容を確認し、その様子をメモし、必要に応じてアドバイスします。

 10分後、各チームの代表に回答を発表してもらい、発表後必要に応じて議論したり、教員がアドバイスした後、5分程度話し合ってもらい、さらに報告してもらいます。最後に教員が適宜評価アドバイス解説を行います。 

 こうしたやり取りを事前課題全てについて行い(問題によって時間は変動します)、第1回目の授業は終わります。

22週目の授業

 2週目の授業では授業終了時に提出する課題について、前回同様ランダムに決められたチームごとに議論し発表していきます。授業終了時提出課題は以下の通りです。


  この課題はSWOT分析(強み弱み機会脅威の英語の頭文字をとった手法)と呼ばれるマーケティング分析によく用いられる手法を用いて、ローソンの今後のマーケティング戦略を提案するという内容です。

 この課題には4段階で回答するようになっており、第1段階で新聞雑誌本ネットを用いて信頼性の高いデータを探してきて外部の環境(政治、経済、社会、技術の英語の頭文字をとった4つの環境分析が有名)を分析し、第2段階でローソンの経営資源(主に人、金、モノ、情報に分類される)のうち、強みと弱みを生み出す資源を分析し、第3段階目で第1段階と第2段階での分析に基づいて、ローソンにとっての市場機会や脅威を分析し、第4段階でその対応策としてのマーケティング戦略を提案していきます。

 授業では各段階ごとにグループで話し合いを行った後、黒板を用いて簡単な報告を行い、各報告に対して議論を行い、必要に応じて教員がアドバイスを行います。そして、最後の10分程度で自分が事前に準備した課題を修正します。修正する時間は長くはないので、事前にかなりの程度課題を完成させておく必要があります。高校生の皆さんにとっては、かなり難しいなと感じる内容かもしませんが、この科目は3年生を対象にした科目なので、1年生の「流通マーケティング入門」などの流通マーケティング関連科目を学習し、事前に購入したケースを熟読すれば対応できるレベルに内容は設定しています。
 
 

4.この授業から得られる効果 

①問題分析能力の向上:実際の企業のマーケティング活動を理解し、その企業の抱えている課題・問題を発見する能力が向上します。
②戦略提案能力の向上:その問題に対する解決策を論理的に立案する能力が向上します。
③コミュニケーション能力の向上:自分の考えを他者にわかりやすく、論理的に伝える能力並びに相手の話に耳を傾け、他者と協力し意見をまとめる能力が向上します。

 上記の能力は就職活動において求める重要な能力です。もちろん、この授業だけで全てが身につくわけではないですが、自分を見つめなおす1つのきっかけとなるようで、受講後社会に出たOBOGの皆さんからも、少し大変だったけど受講してよかったという意見が多く寄せられています。

文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)