2014年1月21日火曜日

会社が見える・会社が分かる映画と経営学のお話し

 皆さん、年初から既に3週間も経ちましたが、あけましておめでとうございます。
経営学部教員の柴田です。このブログも2巡目に入りました。
今回は、経営学の主要研究対象である「会社とはなにか?」について考えてみましょう。
(今回、字ばかりの地味ーーな書き込みになってしまいました。本当は、映画やDVDの
画像などを盛り込んで、派手な作りにしたいのですが、著作権や肖像権・意匠権などの
複雑な問題を避けるため、やむを得ずこのようなblogになっています。あしからず。)

 経営学というものは、私たちが暮らす世の中で「会社」という存在がどのようなもので
あるのか?何をしているのか?を考えるものです。もちろん「会社」ではない、役所や
組合、NPO法人などの組織も大事な研究対象ではあるのですが、やはりもっとも大きな
部分を占めているのは「会社」、とりわけ株式会社という組織であると思います。実際に、
1年生を主対象に開講している経営学の入門科目「基礎経営学a・b」も株式会社が
どのようなものかを中心に講義しています。つまり、経営学の授業とは、会社が見える、
会社が分かるようになることを目指しているわけです。

 ところが、大学に入学して来る学生のほとんどにとって、「会社」というものは、なかなか
ピンと来ない存在のようです。たしかに、自分が会社で働いた経験があるわけではないし、
ご両親のどちらかが会社勤めをしていたとしても、実際に働いている様子を見たことが
あるわけではなければ、無理もないことだとは思います。もちろん、コンビニや外食産業
などでアルバイト経験のある学生は多いでしょう。コンビニや外食産業も今日では、
株式会社組織になっているところが多いのですが、やはりアルバイトというものは、
特定の職場で、指示された内容の仕事のみを一時的に担当するだけですから、組織
全体としての意思決定に参加しているとは言いにくく、「会社の片隅」を体験している
段階にとどまっていると言わざるをえません。

 振り返って見ると、中学や高校でも「会社」というものを学んでいるはずなのです。たとえば、
中学3年生の社会科(公民)の中で、4種類の「会社」、つまり、合名会社、合資会社、合同
会社、株式会社の違いについて、必ず習っているはずです。しかし、合名会社や合資会社
には無限責任社員が必ず存在するけれども、合同会社や株式会社は有限責任社員のみで
構成されると、文字の上の知識として覚え込んでいたとしても、会社という生きた組織が
誰によってどのように動かされているかという点については、なかなか想像がつかない
でしょう。このあたりに、経営学を教える側にとっても非常に大きな悩みがあるわけです。

 私は、たまたま本学に奉職する前の20年間、電機メーカーの会社員として勤務してきました。
そのため、職能(機能)別組織と事業部制組織の違いや社内ベンチャー、あるいはプロダクト
ライフサイクルの進行にともなう競争戦略の変化など、基礎経営学の教科書に登場する
さまざまな事柄を、自分の仕事として直接体験してきました。基礎経営学を担当している教員の
中では、私の他にも加藤みどり先生や関口和代先生は民間企業に何年も勤務された経験が
あるため、やはり同様の経験をお持ちだと思います。しかし、直接知っていることであっても、
「会社勤め」というものを全く経験したことのない大学生に、臨場感を持てるように教えるという
のは、とてとても難しいと言わざるを得ません。

 それを補う方法としては、会社を舞台とした映画のビデオを見て、会社という組織がどのように
動いているのかを、理解できるのではないか、と思っています。(テレビドラマでも良いのですが、
連続ドラマとなると全てを視聴すると長時間になるため、効率が悪くなります。)
2013年度から基礎経営学の授業で、まず最初にビデオを見てもらっている理由がこれです。
今回のblogでは、会社が見える・会社が分かるビデオ教材としての映画と、その見どころに
ついてご紹介してみましょう。なお、一応、現在でもDVDなどで購入したりレンタル店で借り
られるものから選びました。

『サラリーマンNEO劇場版(笑)』

主演:小池徹平 監督:吉田照幸 製作:NHKエンタープライズ (2011年11月)
DVDはこちら

 2004年からNHK総合テレビで放送されてきた、サラリーマンの生態を題材としたバラエティー
番組「サラリーマンNEO」からスピンアウトした映画です。テレビ番組自体が、会社勤めの
経験者から見ると「ある、ある」と苦笑させられる事の多いものでした。それが劇場版に
なってパワーアップしています。あらすじは、次のようです。

 新城(小池徹平)は、第一志望ではない業界5位のNEOビールに入社する。課長・中西
(生瀬勝久)を筆頭に、何かと不条理な目に遭う川上(沢村一樹)など、一筋縄にはいかない
メンバーが揃う営業一課に配属された新城は、量販店まわりや接待など、絵に描いたような
サラリーマン生活を始める。その頃、全国酒類協会ゴルフコンペで、業界1位の大黒ビールの
布袋社長(大杉漣)に惨敗したNEOビールの根尾社長(伊東四朗)が、大黒ビールを抜いて
シェア1位を目指すと宣言し、新商品のアイデアを出すよう全社員に厳命する。さっそく
営業一課でも企画会議が開かれ、新城がその場しのぎで口にしたある企画にGOサインが
出てしまい、事態は思わぬ方向に転がり出す。

 たしかに、新入社員が新製品開発プロジェクトのリーダーに突然抜擢されるはずはないだろう、
などと突っ込みどころも満載なのですが、営業や宣伝広告、総務、製造などの部門化と分業の
しくみ、新製品の企画が承認される意思決定プロセスなどがよく分かります。また、それと
同時に、このような映画やバラエティー番組が人気を博す背景として、実際の会社でも、
教科書通りの合理的かつ最善の意思決定が行われているわけではなく、不合理と不条理が
堂々とまかり通っているのだということも知ることができます。

『ハゲタカ』

主演:大森南朋 監督:大友啓史 配給:東宝 (2009年6月)
DVDはこちら

 NHK総合テレビで2007年に放送されたドラマ「ハゲタカ」がたいへん好評で、その続編の
形で映画化された作品です。あらすじは、次のようです。

 鷲津(大森南朋)は、ファンドマネージャーとして日本企業を買収し「ハゲタカ」という異名を
持つようになった。鷲津は芝野(柴田恭兵)とともにあけぼの光学を立ち上げた後も、着々と
企業買収を繰り返していた。芝野は、日本を代表する自動車企業アカマ自動車に役員として
迎えられ、企業再生の道を模索していた。一方、中国政府系ファンドの意向を受けた劉
(玉山鉄二)はアカマ自動車のTOBに乗り出すことを宣言する。そこには中国政府が自国へと
技術を取り込みたい思惑があったのだが、劉はそれを知る由もない。一方、鷲津は劉の
記者会見を知り、MGS銀行頭取・飯島(中尾彬)とアカマ自動車社長・古谷(遠藤憲一)の
要請にてホワイトナイトとしてアカマ買収に立ち向かうことを決意する。

 企業買収など、難しい概念や用語がいくつも出てきますが、会社は誰のものなのか、
というコーポレート・ガバナンスの問題がよく分かります。

『県庁の星』

主演:織田裕二 監督:西谷弘 配給:東宝 (2006年2月)
DVDはこちら

 織田裕二主演の映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)
も、ピラミッド型の官僚制組織の警察とネットワーク組織のゲリラ集団の対決という、経営
組織論の題材としてたいへん興味深いものですが、「会社」を舞台としているわけではないので、
こちらを選びました。あらすじは、次のようです。

 K県庁のキャリア公務員としてプライドの高い野村聡(織田裕二)は民間企業との人事交流
研修で、営業差し止め寸前のスーパー「満天堂」にやってくる。この店には客も少なく、店員の
モチベーションも低く、役人の常識は全く通用しなかった。野村は邪魔者扱いされ、惣菜部門に
まわされる。そこでの不衛生で法外な行為を指摘すると、野村率いる適正素材を使い高級
弁当を作るAチームと、現状維持のBチームとして分かれて競争することになるが、Aチームの
弁当はほとんど売れなかった。ず、チーム内からも反発される。野村の教育係となったパート
店員の二宮(柴咲コウ)に連れられて、デパート地下の食料品売場などを調査するうちに、
データでは分からなかった顧客の性質に気づかされ、野村は自分の視野が狭かったことに
気づき、満天堂の経営を改善し、研修を終える。県庁に戻った野村は自らの希望で生活
福祉課に異動し、自身の出世より県民の生活を重視した提案をするようになる。

 スーパーマーケットの店舗では、店長・副店長などの責任者の元に、いくつもの売場や
厨房などの部門に組織が分かれ、それぞれの職場の業務に適した服装や作業手順が
決められて、分業が進んでいます。この『県庁の星』と、宮本信子主演の映画『スーパーの女』
(1996年)はどちらもスーパーマーケットの運営の裏側までよく分かります。

『陽はまた昇る』

主演:西田敏行 監督:佐々部清 配給:東映 (2002年6月)
DVDは発売元のJVCエンタテイメントのリンクが消滅していますが、
Amazonなどから購入可能です。

 また、配給元の東映からiTunesでダウンロードできるようになりました。

 1970年代半ばに日本の家電業界を真っ二つに分けた激烈なホームビデオ戦争に勝利した
日本ビクターのVHS開発物語の映画化です。2000年4月にNHK総合テレビで、事業部長の
高野鎮男さんを紹介した番組「プロジェクトX 挑戦者たち 窓際族が世界規格を作った」が
放送されたいへん好評で、何度も再放送されたことから映画化されました。元の「プロジェクト
X」の方もDVD化されていますので見る価値があります。映画のあらすじは、次のようです。

 家電AVメーカーとして業界8位の日本ビクターでは、加賀谷静男(西田敏行)に赤字続きの
非採算部門、横浜工場ビデオ事業部長への異動命令が下りる。加賀谷に課せられた指令は
大規模なリストラだった。しかし、加賀谷は従業員たちに向かって夢だった家庭用VTRを極秘に
開発しようと打ち明ける。しかも一人の馘も行わないというのである。この時、家電メーカーの
雄・ソニーが商品化にあと一歩の所まで漕ぎ着けていたのであった。密かに試作品を作った
加賀谷たちは、親会社であり、日本最大の家電メーカー松下電器産業の創業者・松下幸之助
(仲代達矢)に直接見せ、逆転を図る。

 私の元の勤務先はこの映画の敵役の方なのですが、それでも見ていて泣けます。製造業に
おける製品別事業部制組織が、自律運営、独立採算を目指すのだということがよく分かります。
家電メーカーの製品開発と新規事業化については、2013年のNHK総合テレビのドラマ『メイド・
イン・ジャパン』でも非常によく描かれていました。ドラマですからどうしても長時間になるのが
欠点ですが。
DVDはこちら

『ガン・ホー』

主演:マイケル・キートン 監督:ロン・ハワード 配給:パラマウント映画(1986年3月)
DVDはこちら

 最後はちょっと古い海外の映画ですが、日本企業がアメリカに生産工場を設立する際に
生じる、日米間のカルチャーギャップを、これでもかというくらい大げさに戯画化したもので、
「日本企業」が舞台になっている映画というわけです。あらすじは、次の通りです。

 アメリカの田舎町で閉鎖された工場を、日本のアッサン(圧惨自動車)が買収し、再建に
かかる。ハント(マイケル・キートン)は現地の労働者と日本人の間の調整役に任命されるが、
両者の間にいろいろな摩擦が生じてくる。お互いの溝は深く、簡単に分かり合うことが
できないままであった。しかし彼は本社と工場にはさまれ、同じように悩む日本人責任者の
高原(ゲティ・ワタナベ)と協力し、本社役員の坂本(山村聰)を納得させるべく努力して
いくのだった。

 この映画が製作された1986年はG5プラザ合意の翌年であり、円高ドル安のために日本
企業が海外生産を本格化させていった、まさにその時期にあたります。また1984年12月
には、トヨタとゼネラル・モーターズ(GM)が合弁事業でカリフォルニア州に設立した組立
工場のNUMMIが生産を開始し、トヨタ式生産システムを導入して、GMの他の組立工場
よりはるかに高い生産性を実現して、「NUMMIの奇跡」などと呼ばれていました。このような
時代背景をもとに製作された映画だと思って見ると、当時のアメリカ人が日本人をいかに
不思議な存在と認識していたのかが、よく分かります。


 まだまだ他にも見どころのある映画はありますので、また機会があればご紹介致しましょう。
これらの映画を通じて、皆さんが「会社」という存在をより身近なものに感じて頂ければ
まことに幸いです。

文責:経営学部 柴田 高














0 件のコメント:

コメントを投稿